外伝 カタバ・フツガリ編
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どこの異界を覗いてみても、人の歴史を振り返れば、それは即ち戦の歴史であると言える。 | ||
誰もが戦のない世界を望んでいるにも関わらず、その願いが叶った例はない。 | ||
それはここ、八百万の神々が住む異界とて同じことである──。 | ||
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![]() | フッ……。全く人とは愚かなものよ……。 | |
彼の名はカタバ・フツガリ──。荒ぶる戦神を束ねる、戦神四十七柱の頭領である。 | ||
数多の神が存在するこの異界において、人は己の願いや目的に応じて神を選ぶ。 | ||
そしてどれだけ多くの人から信仰を集めるか──ここではそれが神の力の強さを決める。 | ||
つまり、戦乱の続く今の時代において、戦神ほど強大な神は存在しない。 | ||
野心を抱く大名、武将は勿論のこと、無理やり戦へ駆り出された農民やその家族に至るまで、 | ||
ありとあらゆる人々がそれぞれの思いを胸に戦神へ手を合わせるのだ。 | ||
そしてまたひとり、一粒種の息子を足軽に取られた母親が、その無事を願って手を合わせた。 | ||
![]() | 叶うものか……そんな願いなど……。 | |
母親の必死の願いをカタバは冷たく笑ってはねつける。 | ||
カタバが戦神四十七柱の頭領となってから、下界の戦は激しさを増す一方だった。 | ||
己の無事と戦の必勝。戦にまつわる願いは大きくこの2つに分けられるが──。 | ||
カタバが聞き届けるのはその後者、積極的に戦へ加担する者からの願いのみである。 | ||
そうして戦火を広げていくことで、戦神四十七柱は、その神力を急速に強めていったのである。 | ||
社の近くでも、大きな合戦が続いている。もう夜だというのに、戦の炎は静まる気配がない。 | ||
![]() | どれ、奴らの戦でも眺めに行くか……。 | |
そうつぶやいて、カタバは戦場へと足を向ける。 | ||
![]() | フッ……。小さな火種を撒いてやるだけで勝手に燃え広がる……。全く阿呆な者共だ……。 | |
高みから戦場を見下ろし、カタバはほくそ笑む。 | ||
その戦にしたところで、両軍とも戦神四十七柱を信仰しており、必ず勝つと啓示を受けていた。 | ||
戦況を見ながら劣勢な方へ少しだけ力を授ける。それがカタバのやり方だった。 | ||
力を授かった軍勢はカタバに感謝し、再び死戦へ向かっていく。 | ||
そして戦局が逆へと傾けば、今度はそちらへ力を与える……。 | ||
結果、カタバが関わる戦は常に凄惨なものになり、双方の兵が尽きるまで続くのだ。 | ||
![]() | チッ……。もう終わりか? | |
足元で続いていた激しい戦闘も夜半を過ぎると、兵の疲労が限界に達したのか、終息へ向かう。 | ||
しかし、その一時の休戦すらカタバは許さない。 | ||
![]() | ……まだだ。せっかく私が赴いてやったというのに、なんだその体たらくは……。 | |
と、カタバは腰の刀を抜いて、天に掲げた。 | ||
すると、刃から血の色に似た赤い瘴気が沸きはじめ、瞬く間に戦場を覆い尽くした。 | ||
瘴気に包まれた兵たちは疲れを忘れ、内に広がる憎悪の衝動に任せて再び刀を振るい始めた! | ||
![]() | そうだ! もっと戦え! お前たちが勝ちたいと願ったのではないか! | |
気が付くと、戦場から人の気配は完全に消えていた。 | ||
一昼夜続いた合戦は、最悪のかたちで終わりを迎えたのである。 | ||
![]() | 実にあっけない……。またひとつ新たな戦をはじめなければならぬな……。 | |
刀を鞘に収めながら、カタバはつぶやく。 | ||
その時のカタバはもう、人の戦を高みから操ることに飽きていた。 | ||
どれだけ戦の火を広げ、長引かせたところで、所詮は他人の戦である。 | ||
「もし自分自身が戦場で刀を振るうことが出来れば……」 | ||
生死をかけた異様な興奮、高揚感を感じてきたカタバの内に、いつしかそんな衝動が生まれた。 | ||
![]() | 自らを戦の渦中に置くことが出来ぬとは……。戦神というのもはがゆいものだ……。 | |
人と直接交わることは、神をしても叶わぬ禁忌である。 | ||
![]() | 喧嘩神輿に出てみるか……。 | |
もっと血が見たい……。 | ||
そんな狂った願いの為に、カタバはその夜、喧嘩神輿とうなめんとへの出場を決めたのだった。 |
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